第3回: 美の南

  第3回: 美の南
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住空間が持つ気分

第3回: 美の南

住空間が持つ気分

部屋の整理をこまめにするようになってからというもの、なにかと気分が良い。部屋の中を空気が淀みなく流れるとともに、自分の心の淀みも晴れていくような心地がする。そういう時には、いろいろな物事をポジティブに捉えられるようになるというものだ。お金の問題に悩んでいた里美も、どうにか生活のペースを作り、お金の使いどころと節約のバランス感覚を獲得しつつあった。

「なんとかやっていけそうだし、なんか毎日楽しいな。」

里美の目は、いろいろな物事が鮮やかに映っていた。気分の変化はその人の世界を変える。普段はつまらない物が、尊いもの嬉しいものに。色のないものが、豊かな色彩を伴って目の前に広がり始める。それはまるで恋のようだ。

「こういう気持ち久しぶりだなぁ。」

美の南01里美の心を変えたのは、住空間の整理がもたらした気の流れの変化だけではなかった。先日、引き出しの整理を行ったことで見つけたネックレス。それをくれた先輩への憧れの気持ちをふと思い出したこともきっかけになったのだ。仕事から部屋に帰るなり、ネックレスを手に取り、里美は南にあるソファに座った。ソファの背もたれに体を預けながら、少し過去に思いを馳せた。空間や物には、人々の記憶が宿る。空間や物を通して、かつての気持ちを思い起こすことができるのだ。しかし、里美は輝いた時の記憶をしばしたどるだけで十分であった。忘れていた気持ちを思い出させてくれたのだから。

「明日、服でも買いにいこうかなぁ」

恋をすると人は綺麗になるという。それは恋という気持ちが人の見る景色を変え、自分もまたその鮮やかな空間の中で光り輝くからだ。それは、いままで気づきもしなかったところに発見や関心を与える。

美の南02ソファに横たわっていた里美は、自分の部屋について考えていた。里美の部屋は南を座山としているが、南の方位が美の運気と強く関係している。つまり、里美の部屋では、全体的に美の運気を重要視して空間が作られる必要がある。里美は、部屋の変化が自分の変化につながる気がしていた。南は木の方位であり、白を基調とすることが適している。南にはソファが置かれ、その奥の出窓にはカーテンがかかっている。いまのカーテンは以前住んでいた部屋で使っていた緑色のものであったが、部屋の全体のバランスを考えるとどこか不調和な気もしていた。木製のソファは、ナチュラルなものをよしとする南の性質に適していたが、クッションやカバーを白色のものに変え、全体の雰囲気を統一した。カーテン・ソファがグラデーションを伴った淡い白の空間を形作る。白色の淡い光が部屋全体に充満していくかのようだ。心なしか、自分も優しく軽やかな気持ちに満たされていく。南の方位は、素材としては木製のものやガラスやクリスタルなど光るものとの相性がよい。キラキラしてナチュラルな雰囲気が南の空間の運気を上昇させる。その反面、暗いものやプラスティック製品は、運気を下げてしまう。

「これはここに置かない方が綺麗かもね。」

里美は、南の出窓に置かれていたプラスティックのお皿を、部屋の西側にある本棚の上に移動させ、さっと整頓した。南からの光は、淀みなく窓とカーテンを通して部屋全体にやわらかく広がる。それは、部屋にいることで幸福を感じられる瞬間の一つかもしれない。自分の部屋を好きになれることは生活を豊かにし、気持ちに安らぎを与える。

里美は光があふれる空間の中で至福を感じつつ、自分もまた綺麗に澄んでいくような心地がしていた。南からの光が、里美をキラキラした輝きの中に溶けこませた。