第3回: 赤の部屋、ひたむきさ

  第3回: 赤の部屋、ひたむきさ
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心と彩り -家族の絆を深める物語

第3回: 赤の部屋、ひたむきさ

心と彩り -家族の絆を深める物語

性格と空間は互いに響き合う。聡と凛は兄妹でありながら正反対の性格であった。穏やかな性格の聡に比べて、凛はとても感情の起伏がある。すごく騒いでいるかと思えば、途端に静かになる。自分の感情が行動や表情に表れやすいのだ。聡と凛が一緒にいると、暴走しがちな凛に対して、聡がなだめるという場面がよく見られる。良くも悪くも兄妹でバランスがとれているのかもしれない。そういう性格の違いは空間の使い方にも表れていて、聡は決まったところに決まったモノが置いてないと落ち着かいない性格であったが、凛はその場その場で、モノの置き場所を変えていた。この性格の違いは、家族との関係にも表れていた。聡は、両親と必要最低限の会話しかしたがらなかったが、凛は時間があれば話をしていた。特に、母親である美里には学校のことや塾のことなど、一日の中であったいろんな事を話した。しかし、そういう積極的な性格もあってか、部屋づくりに関しては、自分以外の人に主導権を握られるのが嫌であった。どちらかというと、物事にこだわりがあるタイプである。

「お母さん!また、雑誌の置き場所変えたでしょ!やめてよ〜。」

「ごめんごめん。掃除している時に、うっかり変えちゃった。」

部屋の掃除は、凛が学校に行っている間、美里がしていたため、こういう小さな衝突がよく起こった。思春期の子供がいる家族では、よくある光景かもしれない。親と子のコミュニケーションがよくとれている分、喧嘩も多い。

「もう、今度からはやめてよね。」

「気をつけるね。」

「じゃあ、行ってくるから。」

そう言って、凛は部活へと出かけた。まだ怒っているようだ。凛は、感情を表に出しやすく、よく言えばひたむきで、悪くいえばわがままな傾向があった。そのような傾向は、学校でも表れているらしく、友達と喧嘩してはイライラしながら帰宅することがよくある。

「ただいま。」

赤の部屋、ひたむきさ01「おかえ…」

美里の言葉を聞く間もなく、自室へと入っていった。凛の部屋は赤のモノであふれていた。ベッドのシーツ、カーテン、壁紙も赤を基調として全体が構成されている。赤は「情熱」や「活気」、「恋」を連想させる色だ。ひたむきで感情的な性格と呼応してか、凛は赤色をすごく好んだ。そのようなイメージを持つ赤色は、人の気分を前向きにさせたり、やる気を上昇させたりする。温暖色とも言われるように、暖かく感じさせる効果もある。しかし、人の気持ちを高ぶらせる色でもあるため、元々気性が激しい凛にとっては、時にマイナスの効果を持つものでもあった。

「あーイライラする!」

そう言って、凛はベッドに置いてあったクッションを壁に投げつけた。その音を聞いて、美里が部屋を訪れる。

「どうしたの?」

「別になんでもない!」

気持ちの高ぶりを抑えつけられず、凛は美里の声を遮った。少し落ち着いたらどうかと美里が声をかけるものの、凛は何も返答しなかった。凛はただただ、部屋の中でストレスをモノにぶつけていた。ベッドの上に座りながら、横に置いてあった枕を手にとった瞬間、違和感に気づいた。

赤の部屋、ひたむきさ02「枕カバーが変わってる。お母さん、また勝手に…。」

緑色のウールの枕カバーだった。本来なら苛立ちが増すはずだったが、なぜかそのような気にはなれなかった。季節が秋から冬へと移行する中で、少しでもあたたかい素材の方がよいだろうという母の気遣いを感じたからだ。

「お母さん…。」

緑は「安心感」をもたらす色だ。そのため、情熱的な色である赤と互いに補い合う効果がある。そのせいか、見ていると妙に気持ちのバランスがとれてくる。

「…ご飯まだ?」

少し気持ちが落ち着いた凛が部屋から出てきた。

「もうすぐできるよ。」

互いに支え、補い合う家族の関係が、部屋の彩りにも表れるのかもしれない。