第4回: 活動する場所と休む場所

  第4回: 活動する場所と休む場所
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安らぎの空間

第4回: 活動する場所と休む場所

安らぎの空間

孝は共用部であるリビングにも自分の所有物を置きがちであり、以前そのことで瞳と喧嘩をしたことがあった。それ以来、モノの置き場所に関しては共用部と個室の使い分けを意識するようになったものの、基本的にはどちらも同じような使い方をする生活が続いていた。例えば、食事に関していうと、孝以外の瞳、美樹、真司の三人は、共用部にあるダイニングテーブルで食べることが多いのに対し、孝は自室に作った料理を持ち込むことがしばしばある。食事に関しても、趣味や仕事に関しても、孝としてはそれぞれの空間を使い分けるという発想があまりなかった。どこにいても、複数の行為をしていて、忙しない印象である。それぞれの場所で気兼ねなくいろんなことができるという自由さもあるが、気持ちの切り替えができず、混乱を招きがちだ。

「あの仕事もやらないといけないんだった。あーもうイライラするなっ。」

活動する場所と休む場所01自室で、食事をとりながら雑誌を読みつつ、脇に置かれた仕事の資料が目に入り、今週末の会議までに作成しなければいけないプレゼン資料のことが頭に浮かんだ。孝はいつもどこかしら気が散っていて、集中できない、そんな状態が続いていた。気持ちに余裕がなく混乱が積みさかなった状態は、ストレスを生む。

「ちょっと外に出てくるわ」

自室にいてもリビングにいても気分が晴れない孝はリビングにいる三人に声かけ、駅前に向かった。駅前には小さな商店街があるが、その中のカフェでコーヒーでも飲んで時間を過ごすことにした。たまに来ているカフェではあるが、改めて見渡すと店内にはいろんな人がいる。孝のようにコーヒーを飲みながらぼーっとしている人や、雑誌や本を読んでいる人、試験勉強をしている高校生、PCを持ち込んで仕事している人。家や会社や学校でもできることなのに、なぜこの人たちはカフェに来ているのだろうか、孝はそんな事をふと不思議に思った。たしかに、カフェでなくてもできる事ばかりだけど、この人たちも自分と同じように気持ちを切り替えたりする場を求めているのかなとしばらくして考えるようになった。自分の所有物がない一時的な滞在空間であるからこそ、煩わされることがない。孝は腑に落ちた気がして、コーヒーを飲み干し、店を出た。

「部屋を整理してみようかな」

活動する場所と休む場所02孝は家に着くなり自室に戻った。デスクの上に雑誌や仕事の資料が散財している状態を見直し、雑誌を壁際の本棚に戻し、その脇に小さな椅子をひとつ置いた。デスクの上は仕事に関する作業だけをできるように、雑誌は本棚脇の椅子に座って読むように空間をゾーニングした。またリビングでは、基本的に何もしないことにして、活動する場所を自室、なにもせずぼーっと休憩する場所をリビングとして用い、それぞれの空間を性格づける。しばらくそのように習慣づけることで自室をでてリビングに向かうと、ふと気持ちが楽になれたり、あるいは逆に自室に戻ると「やるぞ!」と集中できたりするようになっていた。こう考えてみると、リビングというのは皆が集まれる団欒の場所ではあるものの、特定の行為をしないという意味では無駄な空間かもしれない。しかし、無駄があるというのは、その規模に関わらず、とても贅沢なことだ。ちょっと生活の中にある小さな贅沢、それは生活に余裕をもたらす。豊かな空間とは、このような小さな贅沢をいかに作るかにかかっているのかもしれない。自室で仕事の準備を終えて、孝はリビングに向かった。

「あははは」

リビングでは、三人の同居人の笑い声が聞こえる。この笑い声も、四人が生活を共にすることで作られる小さな贅沢かもしれない。四人の空間はあたたかな空気に満たされていた。