良いものは良い 終章: 新しい風

【連載】良いものは良い - 価値ある生活を、カヴァースと -
- 【第1回】 良いものは良い 序章: 戸惑い
- 【第2回】 良いものは良い 第1章: 良いものを知る心と、現実
- 【第3回】 良いものは良い 第2章: とても良い家具
- 【第4回】 良いものは良い 第3章: 「きちんとした仕事」の価値
- 【第5回】 良いものは良い 終章: 新しい風 ←今回はココ
終章: 新しい風
産休が間近になり、かなちゃんはますます幸せそうになる。
彼氏とは結婚問題で少し揉めたそうだが、なんとか丸く収まった。
「結婚式あげることになったよ。今はやりなんだって、授かり婚ってやつ」

大きくなったおなか。
今、かなちゃんは夜勤をせず、日勤のみで、主にホール対応をしている。
なるべく重いものを持たないようにしてもらっているのだ。
妊婦さんが入浴介助などはもってのほかだし、オムツ介助も中腰の姿勢になるので、なるべくなら外れてもらいたい。
食事や水分の介助を中心に、かなちゃんは頑張っている。悪阻でひどい時期もあったようだが、それでも何とか乗り越え、今に至る。
あれから間もなくリーダーに就任した大井さんだが、よく頑張っておられると思う。
最初は、「大井さんは丁寧過ぎてついていけない」という意見があったそうだが、結局、結果がついてくるので、みんなは認めざるをえなくなっていった。
それは、利用者へのひとつひとつの対応であったり、オムツ交換のタイミングや、トイレ誘導を怠らないことだったり、あらゆる面で実証された。
大井リーダーの元で、とりあえずは指示されたように仕事をする。
最初、させられている感が強かったみんなだが、そのうち「ああなるほど」と理解が追い付いてきたのではないか。
今、ホールは和やかだ。
利用者は表情豊かであり、職員の言葉遣いも優しくなった。
車椅子の動かし方、トイレへの誘導の仕方、入浴への誘い方。
全てが「大井式」になり、それ故、仕事が気持ちよく流れている。丁寧な仕事のやり方は時間と労力がかかるように見えて、実は一番の近道だったのだ。
「それにしても、金山さん凄いね。わたしそんなこと、とても言えないよ」
つくづく感心してわたしは言った。
そのミーティングに、わたしは同席していなかった。でも、いたとして、ちゃんと良いものは良いと言えただろうか。
羽黒さん推しの主任に口を封じられたかたちになったものの、結果として金山さんの思いは通ったことになる。
というより、金山さんが口火を切ったから、パートさんたちが大井さんを推すことができたのではないか。
羽黒さんの金山さんいびりはなくならないが、金山さんの表情は確かに明るくなった。
羽黒さんの言動に堪えつつ、仕事はきちんとする。金山さんは確実に強くなっている。
「金山さーん、手が空いたらおねがいねー」
今日も、大井リーダーは明るく穏やかに、丁寧に仕事を進めている。きちんと職員にも声をかけている。
金山さんは振り向くと、「はい、今行きます」と返事をし、どこか楽しそうな様子で、トイレに行きたそうな利用者の元に急ぐのだった。

良いものは良いと、信じる心は大事だ。
良いものを手にした時、現実は良い風に変わる。
それは、職場の人事も、家で使う家具も同じなのかもしれない。
「かなちゃんの結婚祝い、テーブルセットにしようかな」
わたしは呟きながら、カヴァースのサイトを開いた。