第1話: 「経験値0」を覆す戦略

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カヴァースメディア部

HTLは1976年にシンガポールで創業、40年以上に渡り、ソファを生産し続けているメーカーだ。現在は、世界に5000店舗以上を展開し、年間1100万台を販売。今でこそ世界的グローバルソファメーカーとなったHTLだが、1976年の設立当初、ソファ作りのノウハウは0だった。それなのに、なぜ40年余りで世界52カ国でソファを販売できるまでに成長できたのだろうか。

そこには、HTLがとった戦略が大きく関わっている。何の経験もなかったHTLは、なんとドイツのラウザー社やムスタリング社といった有名ソファブランドとライセンス契約を結んだのだ。何の実績もない1メーカーがトップブランドとライセンス契約を結んだのだから、周囲のメーカーはさぞかし驚いたに違いない。

こうして、HTLは設立当初から、トップメーカーからレザーソファを生産するための設計技術や生産技術を学び、それと並行してHTLオリジナルのソファ開発も進めていった。この事実を鑑みると、HTLの技術と品質には40年という時の流れ以上のものがあることがわかる。

自らに課した使命 「最高品質のレザーを追い求める」

HTLの強みはトップブランドから受け継いだ技術力だけではない。材料の観点から見ても、他のメーカーとは違う道を歩んできた。ドイツやイタリアのレザーは、古くから世界有数の品質で有名だったが、基本的には自国のメーカーで使用され、海外に出回ることはなかった。もちろん、日本のソファメーカーがイタリアやドイツのレザーを取り扱うこと自体、非常にハードルが高いもの。しかしHTLは、世界トップブランドとのライセンス契約により、設立当初からドイツやイタリアのトップレザーを取り扱うことができた。これにより、設立間もない会社なら通常はありえない、高品質レザーを使ったソファ作りが可能になった。

HTLのレザーへのこだわりは尽きない。なんと、1994年にデンマークの革工場を買収、工場をシンガポールに移して自社で革の生産をスタートさせたのだ。世界トップクラスのレザーを扱っていながら、更にその上の品質を目指したHTL。このことで、自社製造したレザーをデンマークからシンガポールに運ぶ時間やコストが大幅にカットされ、レザーの品質を保ったままソファ作りの工程に移せるようになった。現在は、世界中の牧場から皮を集め、世界8拠点5000人規模の工場でソファを生産している。最高品質レザーにこだわり続け、レザーがより良い状態のままソファを作れるようにという姿勢には感心せざるを得ない。

世界的トップブランドが、これほどまで貪欲にレザーの品質を追い求め続けている。しかも販売数は年間1100万台を超えているので、生産コストを抑えることも、さらには価格を抑えることもできた。これでもかという程にレザーの品質を追い求め、それを低価格で販売しているのだから、他のメーカーはたまったものではない。

「自社一貫生産」 という決断は 「全て」 にこだわるため

HTLが品質を追い求めているのは、レザーだけではない。現在HTLは、ソファ生産の全ての工程を自社内で行なっている。レザーやファブリックの原料となる皮(牛の生体)や糸こそ外部から調達するが、レザーの製造はもちろん、座面や背もたれに使うウレタンやその他の材料も全て自社内で生産。それはひとえに、ソファを作り上げる「全て」の最高品質を追求するためなのだ。

「自社内で一貫生産していることが我々の強みなのかもしれないですね」

と涼しい顔をしているが、自社内で一貫して生産するための環境整備は決して容易ではなかっただろう。HTLが相当の覚悟を持ち、「ソファ作り」に本気で取り組んできたからこそ実現したことなのかもしれない。

HTL

HTLを追いかけていると、ソファのグローバルブランドという華々しいイメージの裏側に、地道に品質を追い求め、柔軟に改良を積み重ねてきた努力が垣間見えた。販売数世界最大規模のブランドがここまでやっているのであれば、他のブランドが追いつくことは難しいのではないだろうか。もしかすると、世界最大規模のソファメーカーが世界最大規模の努力を積み重ねているのかもしれない、とも思えてくる。

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