第2話: 「木を曲げる技術」を紐解く 100年以上磨き続けてきた秋田木工の技術
さて、いよいよ秋田木工の真骨頂である「木を曲げる」技術に踏み込んでみよう。どのようにして、元に戻らないように木を曲げるのだろうか。そこには、秋田木工が世界に誇る技術が隠されている。
秋田木工が商品に込めたストーリー
日本唯一の曲木専門家具メーカー「秋田木工」の正体
第1話: 日本で唯一の曲木専門工房「秋田木工」 曲木とともに歩んできた110年
第2話: 「木を曲げる技術」を紐解く 100年以上磨き続けてきた秋田木工の技術 ← 今回の記事
まずは「木を曲げる」工程を見る
まずは木を曲げる工程を実際に見てみよう。
高温で蒸した無垢材を、鉄で作られた型のようなものに合わせて、一気に曲げていく。一気に曲げていくのには理由がある。木を曲げるために掛けられる時間はたったの5分なのだ。5分を過ぎると木は曲がらなくなり、それまでの工程が全て無駄になってしまう。そのため、職人は毎日毎日この貴重な5分と向かい合い続けている。無垢材を蒸す時に使う蒸気窯の燃料は、加工時に出た廃材やおがくず。資源を無駄にしない姿勢も素晴らしい。
下準備に必要なのは「木箱」を作り「鉄を曲げる」こと
そもそも、曲げられた木を組み合わせてチェアを作るためには、デザインや設計図が必要不可欠だ。それ通りに木を曲げようとすれば、木を曲げるための道具が必要になるだろう。先の動画では何やら鉄のような型があり、それに合わせて木を曲げているように見える。そうなると「おそらくこの鉄の型が、デザイン通りに作られた型のような役割を果たしているのでは」と考えられるが、ではこの鉄は何だ、どうやって作っているんだ、ということになる。
すでにお気づきかと思うが、木を設計通りに曲げるためには、まずはその型となる鉄を設計通りに曲げなければならない。2次元の曲線であればまだ良いが、人間の体は3次元であり、その型となる鉄も3次元に曲げなければならない。一本の鉄を職人が叩いて伸ばしていき、原寸大の型になるよう緻密に仕上げていく。百聞は一見にしかず。鉄を曲げる工程を見てみよう。
見て分かるように、鉄を曲げる工程を職人が手で行っている。鉄型を機械で作ることはできないのだ。この鉄型は数mmのずれも許されず、また鉄は一度曲げてしまったら元に戻すことはできない。まさに職人の腕の見せどころと言えるだろう。さらに、忘れてはならないのが、これは単に木を曲げるための準備に過ぎないということだ。この鉄型が数mmもずれることなくデザイン通りに曲がってこそ、理想のチェアが出来上がる。これだけ責任重大な工程だからこそ、100年以上の歴史を持つ秋田木工でも、これができる職人は数人しかいないのだ。
先程の動画をよく見てほしい。鉄型を作るために何やら木の箱のようなものがあることに気づくだろうか。木の箱のようなものに鉄型を合わせて、設計通りに曲げられたかを逐一確認している。なんと鉄型を作るために、さらに型となる木箱を作成しているのだ。もちろんこれも職人による手作り。つまり、木を曲げるためには、まずは設計通りの曲線を作るための木箱を作り、その木箱に合わせるようにして鉄型を作り、その鉄型を利用して木を曲げるのだ。驚いたことに、これは木1本につき行われる工程であり、すべて同じ型で良いわけではない。気が遠くなるような作業だが、これが秋田木工の技術力の高さと曲木へのこだわりを物語っている。
いよいよ木を曲げる
鉄型ができたからと言って、その鉄の型通りに木を曲げようとしても、当然木は折れたり割れたりしてしまうため、まずは木を柔らかくしなければならない。そのために木を100℃近くなる蒸気で約10分~2時間程度(部品の大きさにより変動)蒸して水分を含ませることから始める。そして木を蒸している機械から取り出して、5分以内に一気に曲げる。5分以上経ってしまうと木が乾燥して固くなってしまい、曲がらなくなるのだ。5分以内に設計通りに美しく曲げることができなければ、それまでの作業が水の泡となってしまう。
10脚のチェアを作るためには
このチェアは6種類の曲木から作られている。このチェアを作るためには、背もたれに使用する曲木のために2種類の木箱を作り、さらに6種類の鉄型を作ったあとに、6種類の曲木を作らなければならない。しかし、口で言うほどその作業は単純なものではないのだ。例えばこのチェアを1日に10脚作ろうとすると、6種類×10脚=60の鉄型が必要となる。そして、8種類×10脚=80もの木を曲げなければならない。さらに、曲木は曲げた後に鉄型にはめたまま乾燥させる時間も必要だ。
木を曲げて家具作りの準備を整えるために、どれだけの時間と技術が必要か、少しはお分かりいただけただろうか。木を曲げただけでチェアができるわけではない。ここからさらに、複雑で途方も無い工程を経なければならないのだ。