第3回: 二人の関係を深める部屋 – 理想を共有する

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夢と絆を刻む部屋

第3回: 二人の関係を深める部屋 – 理想を共有する

夢と絆を刻む部屋

誰しも生活に自分のペースがあるように、生活の場である住空間にも、住み手が「心地良い」と思うそれぞれの雰囲気がある。そこには、これまで、どんな家に住んできたのかという、過去の住空間がもたらす「思い出」も関わってくるだろう。あるいは、住みたい家・部屋という、未来の住空間への「憧れ」も関わるだろう。過去と未来、慣れと理想、思い出と憧れ、さまざまな想いが交錯しながら、住空間に対する人々の意識は形作られる。こうした意識の違いは、複数人で共同生活を行う場合に、表面化する。

「ダイニングテーブルに自分のモノ置かないでって言ったじゃん!」

「あ、ごめんごめん。」

サキとマサトは、同棲をはじめて半年になる。同棲を始めた当初は、ただ一緒でいるだけで、どんな瞬間も、どんな出来事も新鮮で、相手の生活スタイルに対しても、別段気になるということはなかった。しかし、近頃では、そうした共同生活にも慣れ、良く言えば、一緒にいることが自然なものと感じるようになり、悪く言えば、飽き始めていた。こうした時、以前は気にならかった相手の行動が、不快に思えてくる。

「前も言ったのに、なんで約束守ってくれないの!」

「だってさ、ご飯食べながら本読みたい時あるでしょ?」

サキは、共有スペースに他人の私物が転がっているのが我慢できなかった。自分と他人の領域の区別に敏感なのだ。一方、マサトはそうした区分にかかわらず、好きな場所で、好きな事をしたいと思う性格であった。マサキにはサキが怒っている理由が理解できず、つまらない事で怒りをぶつけられる事自体が腹立たしい。こうした些細なすれ違いが続く日々で、徐々に二人の心の間にも溝ができつつあった。いつのまにか、二人の会話は極端に少なくなっていた。サキは、自室に閉じこもりながら、ふと壁に貼り付けられたコルクボードに飾られているマサトとの写真を眺めていた。付き合いはじめた頃に撮った写真だった。

「この頃は楽しかったな。」

あの頃、「いつか二人で暮らせたらいいね」と話していたのを思い出した。その夢が叶ったというのに、なぜこんな辛い気持ちになるのだろう。そう思うと、自然と涙がこぼれてきた。

「はぁ。最近ちゃんと話してないな。」

マサトはどうしているのだろう。ふと、そう様子が気になり、リビングへと向かった。リビングに出ると、何かいつもと雰囲気が違っていた。

「絨毯を変えてみたんだけど。」

マサトの声がした。そうだ、いつもと雰囲気が違って感じたのは、リビングにあるソファやローテーブルの下に、絨毯が敷かれていたからだ。赤を基調としたペルシャ絨毯だった。南側にある大きな窓からの光を浴びつつ、部屋全体が少しあったかく柔らかいイメージになった。

「サキが、前に欲しいって言ってたから。」

マサトの言葉を聞き、サキは昔自分が言った言葉を思い出した。「いつか二人で暮らせたらいいね」と話していた頃、「ペルシャ絨毯を敷いてみたい」と言った気がする。それは、サキが抱く幸せな家のイメージであり、憧れであった。

「小さい頃テレビで見た記憶があるんだよね。」

サキはそう呟いた。テレビに映る住宅では、庭に面する窓から、木々の葉に反射した光が家の中に入り込み、ソファに座る若夫婦を柔らかく包んでいた。そのソファの下には、大きなペルシャ絨毯が敷かれており、それを見てサキはあったかそうだなと感じていた。空間と住人である夫婦の雰囲気が相互に響きあい、家全体の暖かい雰囲気を作っているようだった。

「覚えていてくれたんだね。」

その絨毯には、思い出と憧れ、愛しさが詰まっているかのような感覚がした。いつのまにか、サキとマサトの間にも、一緒に振り返ることのできる過去があり、共に目指すことのできる未来があった。これまで積み重ね、これからも続いていく二人の時間を、そのペルシャ絨毯に感じたのだ。

「ありがとう。」

足元に伝わる絨毯の暖かみを感じながら、サキはそっとマサトの手を握った。