第3回: 空間を混ぜる – 自分の趣味/相手の趣味

  第3回: 空間を混ぜる – 自分の趣味/相手の趣味
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趣味の空間 -自分らしさと人との繋がり-

第3回: 空間を混ぜる – 自分の趣味/相手の趣味

趣味の空間 -自分らしさと人との繋がり-

趣味は内面に深く根付いたものである。野球が好き、サッカーが好き、写真が好き、、、趣味の内容がどんなものでも、その対象への関心が強くなり、関わる時間が長くなれば、それが人の個性を形作り始める。それは、人の内面だけでなく、趣味に関する様々なモノを所有することで、住空間にも表れる。しかし、共同生活を行なっている複数の住み手が、それぞれの個性を形作るような趣味を持っている場合、住み手達の「自分らしさ」がせめぎ合うことになる。そこでは、いかにそれぞれの「自分らしさ」をバランスよく、空間に定着させるかが重要となる。

「タケちゃーん、部屋にいる?」

「、、、あ、いるよー。」

ユウコとタケシは、同棲を始めて3ヶ月になる。一緒に生活することはかねてからの夢であったが、いざ始めてみると、お互いに自分の個室にこもりっきりで、同じ部屋で一緒にぼーっと過ごす、、、という当初思い描いた生活は実現されなかった。というのも、ユウコとタケシはそれぞれ、自分の生活の中心となる趣味を持っていたからだ。お互いに、一人暮らしが長かったこともあって、自分一人でいかに楽しく時間を過ごすかについての知恵と習慣が身についてしまっていたのかもしれない。結局、同棲を始めても、その生活スタイルは変わらず、隣の部屋にいるであろう相手の生活はほとんど目に入ってこない、という状態であった。

「なんで、すぐ返事してくれないのよー。」

「ごめん。ゲームしてて。」

タケシはゲームをするのが趣味だった。暇さえあれば、個室でゲームをしている。何も予定がない時は、一日中個室にこもっているほどだ。部屋には、ゲーム機や、ゲームソフトが所狭しと並べられている。ソファや音響機器も整えられ、充実の環境である。しかし、ディスプレイ・ハードウェア・音が作り出す空間に没頭していると、部屋の外から聞こえるユウコの声は耳に入ってくるはずもなく、どんどんコミュニケーションは少なくなっていく。一方、ユウコはというと、積極的に二人で過ごす時間を作ろうとしているかというとそうでもなく、個室で小説を読む時間を最優先にしていた。部屋の壁は本棚でうめつくされ、本に囲まれながら小説の世界に入り込む時間が何よりも楽しい。二人の生活は交錯する余地がないのだ、、、。

「これじゃ、同棲した意味あまりないよね、、、。」

「そうだね、、、。これはこれで楽しいけど。」

お互いに、どうにか二人の時間を作りたいと思ってはいたものの、なかなか自分の時間を手放すことができない。趣味は余りにも二人の生活に深く根付いてしまっていた。

「この生活を変えることなんてできないよね。」

「うん、、、。でも、変えなくていいんじゃないかなぁ。」

「どうにか、二人の時間は作りたいよね。」

「、、、それなら、こうすれば!」

そう言って、タケシは自分の部屋にあるゲーム機器を、リビングに移動させ始めた。

「どうするの?」

「いや、リビングでゲームすればいいんじゃないかなぁって。ユウコはそこで、本読めばいいし。」

つまり、逆転の発想である。二人で過ごす時間を無理に作るのではなく、それぞれの時間を楽しみながら空間を共有すればいいとタケシは考えた。リビングにあったものを、それぞれの個室に分散させながら、個室にあったものをリビングに移動させる。その際、二人の所有物がごちゃ混ぜになるといけないので、リビングを二分割し、半分をタケシのスペース、もう半分をユウコのスペースとした。二人のスペースの間は腰高の低い棚で区切られており、同じ空間にいながらも、それぞれの領域が確保されている。空間が繋がれながらも、区切られていること、この二つのバランスが重要なのだ。

「タケちゃーん、そのゲームおもしろそうだね。」

「ん、じゃあ一緒にやる?」

「うん!」

二人の空間が混ざることによって、それぞれの趣味、つまり「自分らしさ」も、少しずつ分かち合うことができる。部屋づくりは、そこに住む人々の関係性を作ることかもしれない。