第1回: 空間を区画する -アニメの空間/生活の空間

  第1回: 空間を区画する -アニメの空間/生活の空間
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趣味の空間 -自分らしさと人との繋がり-

第1回: 空間を区画する -アニメの空間/生活の空間

趣味の空間 -自分らしさと人との繋がり-

社会の中で、人はそれぞれの価値観を持ちつつも、折り合いをつけながら生活している。では、住居という個人的な空間の中では、どうだろうか。住居の中にある家具や調度品、そこに収められ、配置される雑多な小物、これらには住み手の趣味・趣向が表れている。住居は、住み手の価値観によって作られるのだ。しかし、家族や知人と共同生活をする場合や、自宅に客を招く場合、個人の価値観は他者からの干渉を受けることとなる。つまり、他者がなんらかの形で介在することによって、住居という空間もまた社会化される。趣味が空間に溢れる時、「自分らしさ」と「人との繋がり」を、いかに共存させるかが思案のしどころとなる。

「今週は、なかなかおもしろい話が多いな!」

ユウジは、アニメを観るのが趣味だ。所謂、オタク、、、とまではいかないまでも、平日に録り溜めたアニメを、週末の休日にまとめて観ることを習慣としている。当初はただアニメを観るだけであったため、関連グッズといっても、せいぜいCDやDVDが家にある程度であったが、いつのまにか種類も増えて、フィギュアやポスター、コップなどの日用品に至るまで、住居空間の基調を形作る程になっている。アニメに興味のない人からすれば、異様な光景として捉えられるかもしれない。

「あ、いけね…。部屋の掃除しなきゃ。」

ユウジには最近、付き合い始めた彼女がいた。その彼女であるヨウコは、週末は、ユウジの自宅に遊びに来るようになっていた。ユウジとしては、趣味を堪能する時間が減ることにつながったが、そのこと自体には、いまのところ文句はない。しかし、大きな問題が一つあった。ヨウコはユウジの趣味に対して、あまり好意を示していなかったのだ。

「ユウちゃん、、、これ片付けて。」

ユウジの部屋には普段、部屋の床にはアニメ関係の雑誌・漫画、机の上にはフィギュアや鑑賞予定のDVDなどが所狭しと置かれており、グッズによって部屋が埋まっている状態であったが、ヨウコが来るときは、部屋の掃除に伴い、アニメのグッズは全て収納の中に仕舞うようにしていた。ただ、時々、仕舞い忘れることがあり、ヨウコはそれを見るとあからさまに不快感を表情に出した。

「どうしたもんか…。」

ある日、ユウジはヨウコの趣向を考慮し、そろそろグッズを整理しようかと考え、部屋の半分をグッズが何もない状態にした。一時的に、部屋のもう半分にはグッズが集められた収納棚や、小さなソファとアニメ観賞用のテレビ・テレビ台を配置した。当初は、グッズを全て片付けるつもりではあったが、部屋の半分だけがアニメゾーンとなっている状態も、不思議と居心地がよかった。二つのゾーンを行き来することで、気持ちも切り替わるような感覚だ。ご飯を食べたり、ネットやデスクワークをしたりという通常の生活を営むときは、整理された側の部屋で、アニメに集中するときは、もう半分の側に移動するという生活スタイルだ。それぞれのゾーンに敷くラグも色を変え、生活ゾーンではグレーのラグ、アニメゾーンにはパステルブルーのラグを敷いた。こうすることで、部屋のゾーン分けがより明確になった気がする。

「でも、これをヨウコがどう思うのだろうか…。」

そうこうしてるうちに、部屋のインターホンが鳴り、ヨウコがやって来た。部屋の中に入ってきたヨウコの表情を、ユウジは固唾を飲んで見守った。

「雰囲気変わったね。」
「部屋を少し整理してみたんだけど…。」
「ふぅん。」

そう言って、ヨウコは生活ゾーンにある大きめのソファに座った。ユウジはその後に続いて、隣に座った。

「なんか、落ち着いたね。」

ヨウコはぼそっとつぶやいた。ヨウコとしては、生活ゾーンとアニメゾーンがごちゃ混ぜになっていると、自分の居場所がどこかわからなくなるが、その区分が明確になることで、アニメグッズが目に入っても落ち着くようになったらしい。二人は、お互いの趣味・個性を尊重しながら、共に生活していく未来が、少し見えた気がした。