第2回: 空間の使い方を重ね合わせる

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趣味の空間 -自分らしさと人との繋がり-

第2回: 空間の使い方を重ね合わせる

趣味の空間 -自分らしさと人との繋がり-

住空間に限ったことではないが、生活の中で、一見すると矛盾する二つの異なる要求を同時に抱えてしまうことがある。個人の生活の場である住空間は、時として、友人・知人を招く場となり、普段とは異なる使い方が求められる。その時々に部屋を片づければ問題が解消する場合もあれば、それがなかなか難しい場合もあるだろう。特に、居住者が生活の軸となるような趣味を持っている時、個人の場と他者を招く場での間の葛藤が大きくなる。こうした時、個人の趣味と、他者とのつながりを共存させられるかどうかが、部屋づくりのテーマになる。

「やっぱりこのライブは最高だね!テンションあがるー!」

ミカは、友人の薦めによって、半年前にとあるアイドルグループのライブに行って以来、アイドルが出演するイベントに参加することが趣味となった。それまでは、特にこれといった趣味もなく、休みの日は家にこもって過ごしていたものの、最近では、週末になると足繁くイベントに通うようになった。当初は、ライブイベントに参加するだけであったが、次第にTシャツやタオル、CDやDVDなどを購入するようになり、いつのまにか自宅の中は、関連グッズでいっぱいになっていた。平日やイベントのない週末は、リビングでライブのDVDを鑑賞する生活が続く内に、リビングの壁にはポスター・Tシャツがかけられ、DVD鑑賞のための空間が作られつつある。ミカとしては、関連グッズに囲まれていた方が、気分が盛り上がるらしい。

「あー!もうすぐケイコ達が来るんだった…。部屋片付けづけないと。」

一人暮らしをしているため、普段は自分のことだけを考えてればよいが、友人・知人が来る時、自分の趣味でいっぱいの部屋をそのままにしておくわけにもいかなかった。リビングの端に追いやられたローテーブルを真ん中に置き、壁にかけられたTシャツやポスターを一時的に外していく。

「DVDは、、、まぁいいか。」

テレビの脇に積み重ねたDVDは、特に邪魔になるものでもないだろうと思い、そのままにしておいた。

「おじゃましまーす!」

そうこうしてるうちに、友人が三人、ミカの自宅に訪れた。勝手知ったる友の家といった感じで、ダイニングを抜け、そこに隣接するリビングに入ってきた。ミカはまだ片付けの途中であったが、ほぼ終わっていたこともあり、そこでケイコ達を迎えた。

「あ、それなになに?」

リビングでしばらく談笑していると、ケイコがテレビ脇にあるDVDに気がついた。

「え、、、これは…。」

突然のことで、少し戸惑ったものの、隠すことでもないと思い、ミカは最近はまってるアイドルのライブについて話し始めた。ミカ達には、この趣味のことを話したことがまだなかったので、どんな反応をするか、少し不安でもあった。

「…へえ、おもしろう、見ようよ!」

予想外の反応に、ミカは驚いた。そういう心積もりでいなかったため、どうすればよいのか一瞬わからなくなったのだ。戸惑うミカを差し置き、ケイコは準備を進めていく。リビングとダイニングを仕切っている赤いカーテンは、舞台の緞帳を連想させる。また、それに付随して、ダイニングにあった赤いラグをリビングに、リビングにあったグレーのラグをダイニングに移動させた。さらに、リビングの隅にたたまれていた赤いTシャツを壁にかけ、リビング全体が赤を基調とした雰囲気に包まれた。こうすることで、リビングとダイニングの区切りが色の差によって明確になりつつ、ダイニングから見ると、リビングが緞帳の向こう側にあるステージのように見える。

「なかなか、雰囲気出てきたかな!」
「…いいかも!」

いつのまにか、ミカの気分もライブ鑑賞モードとなり、ケイコを含む他の三人も胸を高鳴らせていた。リビングとダイニングがつながっている普通の部屋ではあったが、それを客席とステージに「見立てる」ことによって、特別な空間へと変化したのだ。皆が知っているステージという空間のあり方を参考にすることで、個人の趣味の空間が、皆で共有できる場所となった。