災害に強い部屋づくりが必要な理由

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カヴァース編集部

【連載】防災の観点からインテリアを提案

恐怖をあおるつもりはないが、政府の地震調査委員会では、今後30年以内に「南海トラフ巨大地震」「首都直下型地震」「三陸沖地震」など巨大地震が来ると予測している。この国に住む私たちにとって、地震が避けられない災害であることは事実だ。

消費者の防災意識は年々高まっている。コロナ禍以降は在宅時間が増えたこともあり、住まい自体の「防災」に関心が向けられつつある。もはや家具販売店も、消費者に対して防災の観点から見たインテリア提案をしていく必要があるだろう。

このシリーズでは「防災の観点からインテリアを提案」と題し、安心して気持ちよく暮らせる住まいの防災対策を、消費者にどのように提案できるか考察する。はじめに、災害に強い部屋にするための意識啓発を図る方法を考えよう。

過去の教訓から学ぶ

2010年以降で考えただけでも、「東日本大震災」「熊本地震」「北海道胆振東部地震」など、数々の大地震を経験してきた。そして、地震そのものを防ぐことはできないが、防災対策は可能であることを学んできた。過去の教訓を踏まえ、自分を含め大切な家族の命を守ために、まず住まいにおける地震対策の必要を意識してもらうことがとても大切だ。

東京消防庁の調査によると、地震で怪我をした人の原因は、約30~50%が、室内の家具の転倒や落下、移動によるもの(*1)だ。このような災害は、日頃の備えでカバーできる可能性が高い。

家具を購入するタイミングは、住まいの防災対策を見直す良い機会でもある。そのためにはまず、地震が起きた時に、家具がもたらし得るリスクについて知る必要がある。

家具による三大リスク 

気象庁震度階級関連解説表(*2)によると、震度5弱で「固定していない家具が移動することがあり、不安定なものは倒れることがある」、震度5強で「テレビが台から落ちることがある。固定していない家具が倒れることがある」としている。

最近地震慣れしている私たちは「震度5弱」「震度5強」と知っても、また少し強い地震が起きたぐらいの感覚かもしれない。でも、考えてほしい。重い家具が自分めがけて移動し、子供たちの上にテレビが飛んでくるという状況を。ゾッとするのではないだろうか。

具体的に、家具による三大リスクについて把握しておこう。

リスク① 家具の転倒

大地震の際に「家具は必ず転倒する」と考えた方が良い。100kgを超える重量の家具が突然倒れかかってくれば、それは命にかかわる危険となる。背の高い大きな家具はもちろん、小さな家具や家電、扉までも適切に固定しておく必要がある。

ドア付近や通路に配置している家具が転倒すると、ドアが開かなくなり、避難経路をふさぎ、閉じ込められてしまうこともある。つまずきぶつかるなどして怪我をすることもある。

転倒した家具のストーブへの接触や、スイッチを押すなどして火災が発生するケースもある。特に暖房器具を使う寒い時期には注意が必要だ。こうした二次災害は、地震の被害をさらに拡大する。防炎加工のカーテンを選ぶのも有効な手段だ。

リスク② 家具の落下

何気なく配置されている棚や天板上の置物、テレビさえも凶器になる。滑り止めシートや粘着固定マットで、滑り出しを防ぐことは最低限必要だ。

特にコンパクトな住まいの場合、家具や家電を重ねて配置するケースが少なくない。そうした家具や家電も、場合によっては震度4ほどの揺れでも落下することがある。ロッキングと呼ばれる、建物の揺れによる家具が前後左右に揺れる・浮き上がる現象が原因だ。物が落下したり、扉ガラスが割れたりして、大きな被害になりかねない。

意外に盲点なのが、照明器具。落下して破損した場合、負傷の原因となる。ペンダントライトなどの吊り下がりタイプは、ワイヤーやチェーンなどで補強するか、設置の場所を変えたほうが安全だ。場合によっては、天井に直付けできるタイプへ付け替えの検討を提案しよう。

リスク③ 家具の移動

ワゴンやラックなどキャスター付きの家具は、地震の揺れにより、ものすごい勢いで移動する。挟まったり衝突したりすれば大怪我の原因となる。

デスクや収納家具の重い引き出しが飛び出してくるなんて、普段の生活では想像もしないだろう。揺れによっては家具の移動の動きは複雑になり、避けることが難しい。

また重量があって移動するイメージがないピアノだが、脚にキャスターがついているため、移動しやすく非常に危険だ。移動防止対策は必須である。

家具購入時には災害に強い部屋作りを意識しよう

防災を意識した住まいにするには、労力や時間、コストがかかる。「いつかやろう」では遅いこともわかっている。でもなかなか着手できないという現実もある。

家具を購入するタイミングに、防災意識への扉をさらに広げることこそ、「家具屋の使命」ではないかと考える。



【出典】
(*1) 東京消防庁 東京消防庁電子図書館「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」
(*2)国土交通省気象庁「気象庁震度階級関連解説表」

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