時代を超えて愛されるミッドセンチュリー家具とは?
【連載】インテリア名品図鑑
- 【第1回】 時代を超えて愛されるミッドセンチュリー家具とは? ←今回はココ
- 【第2回】 ミッドセンチュリー家具に日本人が魅せられる理由
- 【第3回】 ミッドセンチュリー家具を代表するデザイナーとその作品
デザイナーズ家具に魅了される日本人は多い。
インテリア系雑誌の「クリエーターのお部屋訪問」ページに、高い確率で配置されているバルセロナチェア。学生がアルバイト代を貯めてやっと手に入れた、リプロダクトのイームズチェア。スタイリッシュなホテルロビーに鎮座する、ル・コルビジェのソファ。半世紀以上前にデザインされたチェアやソファが、これほど人々を魅了するとは、驚くべきことだ。
時代や背景、年齢問わず愛されているデザイナーズ家具とは何か、その魅力について改めて考えてみよう。今回のシリーズでは、1940~1960年の間に花開いた「ミッドセンチュリー」時代のデザイナーズ家具にフォーカス。まずは、デザイナーズ家具やミッドセンチュリーデザインについて解説する。
デザイナーズ家具とは?
そもそも、「デザイナーズ家具」とはなんだろうか?「デザイナーズ家具」と検索すると「有名デザイナーが設計したデザイン性の高い家具」と表示される。デザイナーズ家具とは、デザイナーの個性や想いがダイレクトに表現された、オリジナリティあふれる家具なのである。
これまでのインテリアの歴史を見ると、家具は「ゴシック様式」「ルネッサンス様式」「コロニアル様式」など様式で区別されてきた。そのような類別基準ではなく、デザイナー自身のアイデアやインスピレーションが反映された作品を「デザイナーズ家具」と呼ぶようになったのだ。
ゆえに現在ではデザイナーズ家具は「アルネ・ヤコブセン スワンソファ」のように、デザイナー名とプロダクト名がセットになっている場合が多い。デザイナーズ家具とは、デザイナー自身の名前が冠に表された、個性豊かなデザインのプロダクトなのだ。「ミッドセンチュリー」と呼ばれる時代にも、数々のデザイナー家具が生み出された。
ミッドセンチュリーデザインの歴史
続いて、ミッドセンチュリー家具のデザイナーたちが生きた時代を振り返ろう。ミッドセンチュリーデザインは、時代の大きなうねりの中から生まれてきた。
アーツ・アンド・クラフト運動による手仕事への回帰
18世紀末に起こったイギリスの産業革命。工業や技術の革新により、建築物に鉄やガラス、コンクリートなどの金物素材が幅広く取り入れられるようになった。一方で、産業革命の結果として安価で粗悪な大量生産による工業製品があふれることになる。
そんな状況を批判し、ウィリアム・モリスらによる「アーツ・アンド・クラフト運動」が起こった。「中世の職人による手仕事に回帰し、高い品質の実用的な製品を提供しよう」という考え方だ。この運動が、その後のプロダクトデザインに大きな影響を与えることになる。伝統にモダンを取り入れたデザイナーズ家具の土台となったのだ。
戦争の時代がもたらした技術革新
戦争というキーワードも忘れてはならない。「アーツ・アンド・クラフト運動」の影響を受けてドイツに設立されたのがデザインの教育機関「バウハウス」だ。余計な装飾を排し、シンプルさと機能美を追求したモダンデザインが開花することになる。
第二次世界大戦でヒトラーに弾圧され、その権力下から逃れることを余儀なくされたデザイナーたちは、アメリカへと渡った。そのため、名作といわれるデザイナーズ家具の数々は、アメリカから多く生み出されることになる。
加えて、戦争による新素材の開発や武器の製造などによる技術革新により、これまでできなかった成型が可能になった。その結果、自由で斬新なフォルムやデザインの家具を大量に生産できるようになったのだ。
簡単な歴史の振り返りからもわかるように、デザイナーズ家具には、その時代の世相や工芸運動、戦争などの歴史が複雑に絡み合っている。このような背景を持ちつつ、デザイナーの個性やコンセプトが反映され構築されていった家具だからこそ、私たちの心を魅了するのだろう。
ミッドセンチュリーとは?
「ミッドセンチュリー」とは、20世紀の半ばである1940~1960年に発展したインテリアスタイルのことを指す。アメリカをはじめ、ヨーロッパ各地でデザイナーが活躍し、この「ミッドセンチュリー」デザインを支えた。
1945年に長く続いた戦争が終結し、人々が明るい未来へと希望を持ちはじめたこの時代、戦勝国であったアメリカの産業復帰はスピーディーだった。インテリア業界でも、戦争用に開発された成型合板やガラス繊維強化プラスチックなどの新しい素材が、次々と家具に応用されるようになった。
このような成型合板やプラスチックの採用は、明るいポップなカラーや曲線的なデザインの家具づくりを可能とし、これまで存在しなかった大胆なデザインが登場しはじめた。無駄を削ぎ落としたシンプルで機能的なデザインは、注目のインテリアスタイルとして確立されることになる。
この流れは北欧にも伝わり、アメリカと北欧をはじめとするヨーロッパにミッドセンチュリーの波が行き渡った。この時代に生み出された家具が、時代を超えた名作として今なお残っている。
タイムレスな家具
余分を削ぎ落としたシンプルで機能的なミッドセンチュリーのデザインは、家具としても使いやすい。だが、シンプルだけに留まらないのがデザイナーズ家具の特徴でもある。特に不朽の名作といわれるプロダクトのデザインは、そのフォルムだけでも言い当てることができるほど、オリジナリティに富んでいる。
ミッドセンチュリー時代のデザイナーズ家具はタイムレス。モダンでスタイリッシュなプロダクトは、時代や流行を超えて、今なお多くの人を魅了し続けている。
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