ミッドセンチュリー家具を代表するデザイナーとその作品

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カヴァース編集部

1940~1960年の間に誕生したミッドセンチュリー家具。アメリカを中心に発展したものの、その波は北欧やヨーロッパに及び、ミッドセンチュリーを支えたデザイナーは各国で活躍している。

シリーズ最終回となる本記事では、多くのデザイナーの中でも「この人たちは外せない」というミッドセンチュリーの代表的なデザイナーとその代表作を紹介しよう。

チャールズ&レイ・イームズ夫妻

ミッドセンチュリーデザインといえばまず名前が出てくるのが、チャールズ&レイ・イームズ夫妻だろう。マルチな才能にあふれていた夫婦は、家具デザインだけに留まらず、建築、グラフィック、映像など、多岐にわたる分野で活躍した。

アメリカの私立大学院「クランブルック・アカデミー・オブ・アート」で出会い、結婚した2人。夫婦ならではの共同作業により、ミッドセンチュリー期のアメリカに強烈な衝撃を与える革命的なデザインを次々と誕生させていく。

その中でも代表的な作品が「プライウッドチェア」だ。プライウッドのチェア開発について、チャールズ・イームズは「直観のひらめき。30年かかってひらめいた」と述べている。独自のコンセプトは時間をかけて育まれていったのだ。

イームズの代表作「プライウッドチェア

建築用の資材として使われるのが一般的であった成型合板(プライウッド)。第二次世界大戦中、イームズ夫婦は海軍から、兵士の足が骨折したときに使う、プライウッドの副え木「レッグ・スプリント」の開発を依頼される。

夫婦はプライウッドの研究と開発をおこなう「プライフォームド・ウッド社」を立ち上げ、成功する。熱と圧力をかけることにより、木材を3次元曲面で成型する技術を発見したのだ。このとき培われた最先端のプライウッド技術が、家具の製品化につながり、「プライウッドチェア」を含む名作家具が次々と誕生することになる。

この「プライウッドチェア」は、1999年のアメリカ「タイム」誌ミレニアム号にて「20世紀最高のデザイン」に選ばれている。薄くて軽量でも耐久性に優れ、緩やかな曲線が美しいチェアは、実際に座っても身体にフィットし、座り心地が良い。

「20世紀最高のデザイン」が部屋にある幸福感を味わえるなんて、ワクワクするではないか。

ハンス・J・ウェグナー

「椅子の巨匠」として知られているデンマークの家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナー。彼の作品の多くはニューヨーク近代美術館をはじめ、ミュンヘンのディ・ノイエ・ザムルング デザインミュージアムなど世界各国の美術館に所蔵されている。

デンマークとドイツの国境の町トゥナーで生まれた彼は、13歳の時から家具職人の元で家具作りを学び、17歳で家具マイスターの資格を取得した。兵役でコペンハーゲンへ移動し、その後コペンハーゲン美術工芸学校に在籍した後、デザイナーとしての活動を開始。

10代の頃から身につけた家具職人としての卓越した技術と知識、そして木材に対する深い造詣と愛着が彼の作品から感じられる。彼は生涯で500種類以上のチェアをデザインしている。そんな彼の作品の中で、日本人に愛され続けているのが「ザ・チェア」だ。

ウェグナーの代表作「ザ・チェア」

「椅子の中の椅子」という名前を与えられた「ザ・チェア」。ウェグナーの作品の中でも、最高傑作と呼ばれることの多い名作だ。「ザ・チェア」最大の特徴は、背もたれからアームにつながる流れるような曲線美。「ホースシュー(馬蹄)」と呼ばれるこの形は、「フィンガージョイント」という接合方法を使って、背もたれとアームを一体化させることで実現した。

現在はこのジョイント部のギザギザがデザインのアクセントとして評価されているが、ウェグナー自身はこれを嫌ったという。徹底してシンプルさを追求した彼の姿勢が垣間見えるエピソードである。

世界中で愛され続けている「ザ・チェア」だが、意外なことに発売当初は評価されなかった。不要なパーツを取りのぞいたミニマムなデザインが「シンプルすぎる」と受け取られ、「みにくいアヒルの子」と呼ばれたほどである。

不遇の名作の運命を変えたのは、アメリカ大統領選だった。1960年、ジョン・F・ケネディとリチャード・ニクソンのテレビ討論会で、「ザ・チェア」が使われたのである。「座り心地が良く、座った人を堂々と見せてくれる」という理由で「ザ・チェア」を気に入っていたケネディ。彼が、時代に埋もれていた名作椅子の素晴らしさを人々に伝えたのだ。発売から60年あまりもの月日が経った今でも、その人気は不動のものである。

今なお色褪せない不朽の名作

ミッドセンチュリー家具には名作が多い。でもそれは、ただ単に名作家具だけが作られていた訳ではない。何千何万という作品が作り出されたなか淘汰され、ごく一握りの本物だけが「不朽の名作」として残っているのだ。

過酷な時代を経て醸成されてきたミッドセンチュリー家具は、私たちの日常を豊かにしてくれる。少しずつ不穏な空気を醸しはじめている現代にあって、当たり前の日常の大切さを感じさせてくれる貴重な存在だ。

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