第5回: 色と人が集まる部屋、家族の空間

  第5回: 色と人が集まる部屋、家族の空間
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心と彩り -家族の絆を深める物語

第5回: 色と人が集まる部屋、家族の空間

心と彩り -家族の絆を深める物語

リビングなどの共用空間で家族と過ごしていると、座っている位置や、そこでの振る舞いから、心理的な距離感を感じることがある。空間には人々の関係性が表れるのだ。美里と優二は、家にいる多くの時間をリビングで過ごしていたが、息子の聡、娘の凛は個室にこもることが多かった。そんな中でも、凛は美里と話をするため夕食後などはリビングにいることもあったが、聡がいることは稀であった。

「聡は部屋?」

「今日は出かけてないはずだから、そうだと思うよ。」

色と人が集まる部屋、家族の空間01日曜日の午前、優二と美里の何気ない会話の中にも、子供を案じる親の気持ちが表れる。リビングは、白やクリーム色を基調色として、カーテン、ラグ、テーブルクロスが整えられていた。そこに木製のテーブルやソファ、椅子が置かれていて、ナチュラルな雰囲気である。優二と美里がソファで座りながら静かに過ごしている空間に、東からの鮮やかな光が柔らかく広がる。どことなく時間もゆったりと流れている心地だ。ありふれた、いつもの光景ではあるが、そこには空間や家族が持つ幸せのイメージが満ちている。

「お母さぁん。この服装どう思う??」

出かける用事があるのか、凛が自室からリビングへと出てきた。美里に、今日の服装についての意見を聞きたいらしい。

「いいんじゃない?可愛いと思うよ。」

「そうかなぁ!じゃあこれで行くよ!」

「あ、凛、ちゃんとご飯は食べてから出かけなさいよ。」

「わかってる!」

そう言って、凛はダイニングテーブルの椅子に座った。ダイニングキッチンはリビングと隣接した一体的な空間の中にあり、リビングのソファに座る優二や美里と少し離れて、ダイニングで凛が遅めの朝食をとっている。家族全員が一緒の時間に食事をするという生活ではないが、美里や優二もそれでいいと思っていた。それぞれの生活リズムがゆるやかに交錯しながら時に共振する、それも家族の生活のあり方の1つかもしれない。

「そういえば、ランチョンマット替えたんだね。」

色と人が集まる部屋、家族の空間02ダイニングでご飯を食べる凛が、リビングにいる里見と優二に話しかけた。リビングとダイニングキッチンは共有空間であるため、強い個性が表れず、穏やかな雰囲気になるように白やクリーム色を基調としていたが、個人で使用する物には、それぞれの好きな色を配するようにしていた。ダイニングテーブルでは、クリーム色のクロスの上に、凛には赤、聡には青、優二には緑、美里には黄の四色のランチョンマットが敷かれている。パレットの上で絵の具を混ぜるように、住空間は家族の基盤となり、その個性を結びつけていく。

「ごちそうさま!じゃあ、いってくるね!」

早々と朝食をすまし、凛は外にでていった。その颯爽とした姿は、青春の息吹を家族の空間にもたらすかのようだ。すべての時間を共に過ごさずとも、それぞれの生活リズムが家族を活気づける。そうこうしているうちに、聡が個室から出てきた。

「凛は出かけたんだ。」

聡もまた、ダイニングテーブルの椅子に座りつつ、リビングにいる美里と優二に、ぼそっと話かけた。いつも座る席の前に敷かれた青のランチョンマットを見て、少し気が和んだ。小さなものではあるが、そこには家族の空間の中に自分の居場所が存在することへの安心感がある。

「お茶でもいれようか。」

優二がそう言って、三人それぞれの専用の湯のみ茶碗にお茶を注いで、ダイニングテーブルの上に並べた。ランチョンマットと同じく、湯のみ茶碗にも、それぞれの好きな色が配されており、リビング・ダイニングを含めた空間を鮮やかに彩っている。

「こうして皆でお茶を飲むのも久しぶりだね。」

「そうだね、今度は凛も一緒にいるといいな。」

「うん。」

家族の空間は、それぞれの個性をちょっとずつ出しあいながら、ゆるやかに作られていく。また、そうした空間の中に人々は自分の居場所を見出す。家は、自分が存在していることを確かめられる場所として、静かに、そして優しく息づいているのだ。