第2回: 経済の西

  第2回: 経済の西
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住空間が持つ気分

第2回: 経済の西

住空間が持つ気分

里美は、慣れないながらも新しい職場・土地での生活に光を見出し始めていた。心がすっきりしたせいか、物事をポジティブに捉えるようになっていた、、、はずであったのだが。実のところ、里美には新しい問題が起こっていた。一言で言ってしまえば、それは”お金”だ。上京を機に一人暮らしを始めた里美には、一人で生活するということの金銭感覚がまだ上手く身についていなかった。それに加えて、職場での飲み会など、付き合いでかかるお金も馬鹿にならない。一体、皆どうやって生計をたてているのか。里美の心は疑問が膨らむと同時に、生活費をいかに節約するかでいっぱいであった。

「今月どうしようかなぁ。給料日まで後一週間もあるのに。」

経済の西01里美はため息をつきながら自宅の玄関の扉を開け、中に入った。里美の陰鬱な気分を反映してか、玄関に置かれた靴もどこか散らばっている。風水では、玄関から気が入ると考えられているが、その気の入口が荒れていては、運気も下がるというものだ。里美は、つい先日読んだ風水の本を思い出し、玄関の整理から始めた。

「そういえば、植物やお花を玄関に置くといいんだっけ。」

花や植物は、運気を上昇させる旺気を呼び込む。気の入口である玄関に植物やお花を添えることは気の流れを豊にするのだ。さらに玄関マットを置くことによって、運気を停滞させる煞気を防ぐことができる。良い気を招き、悪い気を防ぐ。玄関のインテリアを工夫することは、多くの意味を持っている。里美はお花と玄関マットを明日の仕事終わりにでも買うことを決めて、部屋の中に入った。玄関から入り込んだ気が部屋の対角に向かって流れていくように、北西隅にある玄関から、部屋の南東隅にまでは視界を遮る物は置かないようにすっきりとした空間が作られている。

「あ〜今日もつかれた〜!」

里美は部屋の南側に置かれたソファにどかっと倒れこんだ。ソファに横たわりながら、給料日までのお金の使い方について考えをめぐらした。

「お金…お金…」

まさか、自分がこんなにお金について悩む時が来るとは思っていなかった。むしろ、どこかいやらしい気もしていたが、今では切実な問題だ。滅入った気持ちでいると部屋の雰囲気もまた淀んで感じる。そんな中、西の壁の脇に置かれた本棚に目が入った。本棚は腰ぐらいまでの高さで天板の上には写真や小物が乗せられている。風水では、西は五行の中でも金の方位とされており、金運や事業運に強く関係している。里美はふと、風水に関する著書を開き、自分の部屋を眺めた。西の方位は、上質でやわらかい質感を持たせることが重要である。形としては丸いもの、色としては白・ピンク・パステルイエローと相性がいい。しかし、単純にそれらの色を使えばいいというものでもない。部屋には座山という基本的な性格を規定する方角があるが、里美の部屋では南に当たる。南の座山がもつメインカラー・スタイルとの調和が重要なのだ。座山を南とする場合、ナチュラルな木製のもの、白色のものを基調とするのがよい。里美は、買い換える時には、西の本棚を薄いパステルイエローのものにしようかなと考えを巡らし、小物の整頓を始めた。本棚など収納の場合、特に乱雑な状態になっていることは気の流れを阻害してしまう。いつも、整理された状態で淀みをなくすことを心がけねばならない。

経済の西02「あ、これって。」

里美の手には、本棚に備え付けられた引き出しの奥から出てきた品の良いネックレスが握られていた。それは、大学合格時に、お祝いとして憧れだった先輩から贈られたものだった。辛い受験勉強の相談にのってくれ、里美を励まし支えてくれた先輩であった。

「何事も地道にね。」

ちょっとした努力の積み重ねが実りある未来を作る。幸せのスタートラインは常にそこにある今なのだと改めて思い返し、里美はネックレスをそっと本棚の上に飾った。ぎりぎりな生計ながらも、どうにかしようという自信と希望が里美の胸の中に芽生えた。