第3回: 何もない空間を作る

  第3回: 何もない空間を作る
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安らぎの空間

第3回: 何もない空間を作る

安らぎの空間

共同生活を行なっている瞳、真司、美樹、孝の四人の中でも、他の三人とは異なり真司はあまり共有の居間にはおらず、自室にいるのが好きなタイプであった。真司は読書を趣味としていたが、暇さえあれば自分の部屋で本を読んでいた。部屋は無数の本で溢れかえり、真司自身にとっては好きなもので囲まれ、心地良い状態ではあったが、他人からみれば乱雑ともいえる状態であった。しかし、そんな状況でも定着してしまえば、それが当たり前となり、その所有者としては落ち着く空間となる。ただ、ふとした瞬間に綻びが生じるものであるが。

「あの本、どこにあったけかな。」

何もない空間を作る01休みというのもあって、小説を朝から読み続けていた真司ではあったが、ふと昔読んだ別の小説を思い出し、その置き場所が気になった。本で溢れかえっているといっても、足の踏み場もない状態というわけではなく、床に本が積み重ねられている中で、歩くための動線や座る場所は確保されていた。いわば、本の中に住んでいる感じといったところだろうか。しかし、そのような状態では、ふと探し物をすると、積み重ねた本が崩れ、すぐさま物が部屋中に散逸しはじめる。動線しか確保していていないため、物を新たに置いたり、自由に使える場所が限りなく少ないからだ。

「あぁもうイライラするな。」

本でいっぱいの部屋は落ち着いた状態ではあったが、その秩序が崩れはじめると、途端にストレスがたまる。マメに掃除をしていたものの、本と本の隙間にあった埃が一気に舞うと同時に、自分のストレスも噴出する。探し物をしていたはずが、お目当てのものは見つからず、部屋が散らかるとともにストレスだけを残す結果となってしまった。

「気分転換にちょっとリビング行こう。」

部屋にイライラが充満している気がして、真司は自室を出た。リビングでは孝と美樹がいたがソファで座って談笑していた。居間には必要な共用物以外は置かれておらず、真司の部屋よりは整然としている。たしかに、それは自分の気分としてもすっきりとした心地だ。

「あまり物ばかりなのもよくないのかな」

居間で、孝、美樹としばし話をした後、再び部屋へと戻った。自分の部屋を見渡すと、ほとんどが本の置き場所となっており余白がない。

何もない空間を作る02「もうちょっと置き場所を整理するか」

孝は、床に積み上げていた本のうち、いますぐ読みそうなものと当分手をつけることがないであろうものを分類し、後者をダンボールに詰め押入れの中にしまった。また、読みそうなものも、床に積むのではなく壁の脇に集めて、本の収納場所を確保する。

「ちゃんと本棚を作らないとな」

本棚に本を置く際にも、小説や雑誌、評論などジャンルや内容によって整理し、どこに何があるのかを把握しやすくすることを心がける。そうすると、秩序よく物が配列され、よりすっきりした心地がする。そしてふと床に目を向けると、本が置かれてあった場所が何もない空白の場所となっている。

「こういうふうに何もない場所を作っておくのも余裕があっていいな」

床にどかっと腰をおろし、壁の脇にある本を手にとった。ページを繰りながら、ぼーっと過ごし、再び本を戻した。しばらくすると、本の整理で疲れた体を休めるように、床に横になった。

「こういう風に体を伸ばせる場所があるのもいいな」

何もない空間を作る03フローリングの床が見えるのはさびしい感じがしたため、そこにラグを敷き、何も置かない場所を作ることにした。そうすると、棚から取り出した本を一時的に置いたりできて、部屋の使い方の自由度があがるし、少し余裕がでる。

「ふあぁ」

整理で疲れたせいか、部屋がすっきりしたせいか、真司はいつのまにか眠りの中にいた。