とある住宅街にとある大手住宅メーカーで新築されたH邸、そして個人経営の大工さんによって注文新築されたO邸のそれぞれの御夫人はいつも口争いばかりしていた。
- デザイナーの御主人と音大生のお嬢さん三人家族、のH邸。
- 公務員のお父さんと野球が大好きな中学生の男の子と同じく三人家庭のO邸の御家族。
「うちには吹き抜けを取り入れました、吹き抜けは、とても解放感があって住宅が豪華に見えますわ」とH夫人
「うちは玄関の上は吹き抜けにできるスペースがありましたけれど、納戸にしています。住宅の設計図の段階で頭領はそのスペースは収納に使った方がいいと言われましたのよ」とO夫人
「せっかくですがお宅は玄関が暗くありません・・・?」 とH夫人
「そうかしら、お宅こそ、二階の音が下に聞こえたり、冷暖房の効果が台無しじゃあありません・・・?」とO夫人
そこに仲介に入った二件の真向かいの農家経営のT邸の御夫人。
「まあまあまあ、お二人さん、贅沢や不満を言わないの。あたしの家を見なよ、築50年を超えた旧家だよ。しかも、狭いし、暗い」
T邸の御夫人はご主人を早くに亡くしている、女手で独りで二人の息子さんを育て上げた…長男は、福祉関係の国立大学の学院生、二男は海外援助ボランティア派遣員として何年も前から親元を離れて、時々仕送りをしてくる。H邸夫人はあえてこう続ける。
「冷暖房効果は特に夏は吹き抜けでも問題はありませんわ。むしろ注意したいのは冬ですわ、温気は二階へ逃げて行ってしまいます、二階に続く吹き抜け部分に温気が滞らないようにファンをつけたのも解決策ですわ。しかしね 一階の暖房を床暖房の設備にすることで吹き抜けでの保温効果に影響はありませんわ」
O邸夫人はこう言った。
「うちは、確かに間取り的に暗いです。でも窓などを多く取り入れたり、鏡を多く使ったインテリアで、部屋の雰囲気を明るめにしています」
T邸夫人は、
「うちは冷暖房なんて贅沢なものはないよ、でもね、夏は暑ければ薄着で過ごしたり、冬は寒ければき込んだりしているよ。うちの窓はなるべくこまめに拭き掃除しているよ。そうすれば光がたくさん部屋に取り入れられるからね。埃をかぶった窓じゃ幾分か部屋が暗く感じられるからね。」
H邸夫人、
「二階の音は、確かに、夜は下に響いて来るのですわ、でもなるべく二階の部屋のドアは閉めるようにしていますわ…しかも、吹き抜けを多く取り入れた間取りは防犯にも効果があるのですよ」
O邸夫人は続ける。
「うちは、収納が多いのが自慢ですわ、そのため部屋はいつもすっきりとしてはいるように感じられています…吹き抜けに使うスペースはそのまま収納に回した方が効率的ですわよ。」
「あらあらそうかしら…大体、いまどき吹き抜けまで建築延べ床面積に数える個人の大工さんや小規模工務店の建築システムはどうでしょうか…すべてインテリアから照明までハウスメーカーのコーディネーターが担当してくださったお陰で結構満足な住空間でしてよ。」とH夫人
O邸の御夫人も負けずとやり返す。
「そのかわり、うちの大工さんは、木材は結構いいものを使ってくださるのよ、材料に吟味した素材を使えるのは、中間マージンなどの関係で割高になってしまうハウスメーカーでの新築より、いい素材を効率的に取り入れた良心的な施工をしてくださるのは昔ながらの大工さんですわ。」
「あたしゃ、自宅って見栄や虚栄のためにあるものだって思ったことは一度もないね。いくら家が豪華でも、自宅を華美にしたり、それを盾に他人と争い事する人は、どこか満たされないものとしたものや不満などがあってことで不幸な人だと思うよ。」
T邸のおかあさんは、笑いながらこう言って、立ち去って行った。
二人の御夫人は、ふんっ といつもながらの意地を張って、顔も合わせないままそれぞれの自宅に入っていった。数時間後、帰宅時間。三人の子供たちが帰ってきた。実は、O邸、T邸、H邸のお子さんは近所ということもあって大の仲よしなのだ。
O邸の中学生・・・「おにいちゃんやお姉ちゃんたち、高校受験に大切なものってなに?」
H邸の音大生・・・「あたしは、Oくんらしく野球を大切にしてほしいな、T君みたいに人の役に立つ大人を目指すのもかっこいいよ。」
T青年は・・・「君たちみたいにそれぞれ音楽や野球ってかっこいいと思うよ、自分らしくがいちばんじゃないかな?」
T邸のおばちゃんは、三人を呼びとめる、うちは冷房もないし暑いけど、いいスイカがあるんだ食べて行きなさい、いつも仲良しだねあんたたちは。
「はーい♪ いつも、ありがとう おばさん。」