第3回: 心地よく集中できる作業空間

  第3回: 心地よく集中できる作業空間
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部屋を快適にする”文法” - 知恵の蓄積に学ぶ

第3回: 心地よく集中できる作業空間

部屋を快適にする”文法” - 知恵の蓄積に学ぶ

「んー、なんか気が散るなぁ。」

洋二は、自宅でフリーランスとしての仕事をしていた。そのため作業のペースは、自分自身のやる気や体調などに依存し、自己管理が特に求められる。いままで、洋二は作業机で仕事をするだけでなく、食事もそこで摂っていたが、物置となっていた食事机を整えたことで、改めて作業スペースのあり方について考えを巡らせていた。

「空間の使い方がよくないのかな。」

これまでの習慣で、作業机には、仕事の資料だけでなく、読みかけの本や、趣味で集めているプラモデルなど、自分の生活に関わるいろんな物が置かれていた。そのような状況にあった机を整理するだけでも、気持ちが変わるような気がしていた。

「ちょっと、工夫してみるかな。」

そう言って、洋二は仕事場に関するパタンについて調べ始め、「作業空間の囲い」という項目を発見した。読み進めていくと、仕事場の雰囲気に関してこう書かれてある。「囲われすぎたり露出しすぎた作業空間は、効果的に働ける場所とはいえない。良い作業空間は、このバランスがうまくとれている。」ベッドや食事空間と同様に、作業場所も、全体の空間から孤立したり、均質になってしまうのもどちらもよくないらしい。全体と分離しながら連続する、この二つのバランスが部屋作りの鍵なのだ。

「なるほど、僕の今の部屋はどうなのかな。」

これまで少しずつ部屋を整えてきたこともあって、就寝場所や食事場所は他のスペースから分離され、特別な場所としての雰囲気を持ち始めていた。そのためか、部屋全体は雑然としている場所と、整えられている場所に二分されており、異種のものが混ざり合った居心地の悪さがあった。作業場所は、その雑然さを一挙に引き受ける状態となっていた。

「具体的には、どうすればいいんだろう。」

作業場所を整える方法論を探っていくと、『パタン・ランゲージ』ではいくつかの仮説が提示されていた。その中でも洋二は、「背後に壁があること」「片方の側面に壁があること」の2つにまず目がいった。というのも、背後に壁があると、人は防御されてないことの不安感を感じ、片方に壁がないと視界に入る180度にわたる出来事に気を向けなければいけないかららしい。背面と側面片方に壁があると、人は安心して作業ができるということだ。また、作業場所は囲いすぎてもいけず「前面2.4m以内にめくら壁を設けないこと」「屋外への眺望の必要性」の2つも重要である。視界前方に壁があると、机から目を上げた時、遠くの方に焦点をあわせ、目を休めることができない。さらに、外への眺めがないと、閉鎖感を感じてしまうという理由だ。現状の洋二の作業机は、前面に壁があり、その他三方はなにも遮断するものないという状態であった。つまり、本の中で提示されている仮説とは真逆の状態である。

「たしかに、外が見えた方が開放感があっていいかも。」

洋二は、窓が設けられた壁が作業机の側面にぶつかるように机を移動させ、さらに本棚を椅子の背面に配置した。こうすることで、本の中で見つけた4つの仮説を満たすことができた。机の前に座ると、窓の反対側の側面と、視界前方は部屋全体の空間とつながっているが、背面は棚によって囲まれており適度な囲みと開放性がある。

「ちょっとすっきりしたかな。」

窓からは夕方のオレンジ色の光が差し込み机の上を照らしていた。机の前に座りながら、その光に包まれていると、自分の考えや気持ちも穏やかに澄み渡っていく。空間を作ることは自分の気持ちを作ることかもしれない。

参考:C.アレグザンダー(平田翰那訳)、『パタン・ランゲージ』、鹿島出版会、1984