第2話:江戸時代から現代へ 川島織物セルコンの歴史を紐解く

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カヴァース編集部

シリーズ第2回となる今回は、江戸時代から180年あまり続く川島織物セルコンの歴史を紐解いてみよう。同社は、技術を磨きながら時代の変化に柔軟に対応してきた。長い歴史の中で培ってきたモノづくりへの真摯な想いをご紹介する。

川島織物セルコンが商品に込めたストーリー

新聞記者から見た「川島織物セルコン」の姿

第1話: 伝統と革新の融合 進化し続ける川島織物セルコン

第2話: 江戸時代から現代へ 川島織物セルコンの歴史を紐解く ← 今回の記事

第3話: デザインから織りまで 織物の生産工程紹介

事業の礎を築いた初代と、世界の「KAWASHIMA」に導いた二代

日本初のインテリアファブリックスを誕生させ、世界最高峰のテキスタイル(繊維)メーカーとなった同社の礎を築いたのは、初代川島甚兵衞と二代川島甚兵衞だ。初代甚兵衛は京都で創業し、事業の基礎を根付かせた。そして二代目甚兵衞は、ヨーロッパ視察をきっかけに織物による室内装飾を考案。

1888(明治21)年、明治宮殿の室内装飾を織物で提案し、インテリアファブリックス参入のきっかけとなった。その後、海外皇室への献上品を製作したり、数々の万国博覧会でさまざまな賞を受賞するなど注目を集めた。呉服から室内装飾へと変貌を遂げた「K A W A S H I M A」の名は、世界からも一目置かれるようになったのだ。

社内には、卑弥呼の時代に織られたであろう裂地や資料をはじめ、今では収集不能なコレクションがある。初代・二代甚兵衞は世界中から染織品約8万点、古書約2万点を集め、織物文化の継承にも力を注いできた。 また、その時々で名を馳せた一流画家に依頼したデザインの多くの図案も残している。

それらを研究・保管して自社の製品作りに役立てるだけでなく、文化財の復元・復興の参考にし、研究者への公開も行っている。先人が残した貴重な叡智を受け継ぎ、役立てる心で、織物の未来を開拓し続けているのだ。

妥協を許さぬ「真善美」の心

四代甚兵衞が定めた社訓の中に「真善美(まこと)」という言葉がある。「真」は、素材や技術に妥協を許さない本物を意味し、「善」は、お客さまやユーザーを裏切らない信頼を表す。そして「美」は、染織の最高を目指した一流品を象徴している。

これらは川島織物セルコンのモノづくりに対するこだわりや妥協を許さない姿勢であり、考え方の根幹になっている。「真善美」を忘れず、お客さまに自信を持って商品をお届けできるのか。全社員が常に自問している。

より良いモノづくりを志すなら、良い意味で執着がなければならない。同社内には、製作途中で経糸が切断された綴織(つづれおり)壁掛がある。1921(大正10)年、宮内省へ納める予定で製作を進めていたが、製作途中で退色の兆しが発見されたために断念したものだ。当時最良であったドイツ製染料が、大戦のあおりで品質が低下していたために生じたトラブルだった。

ただ退色は無く、そのまま織り進めようという意見が大半であった。しかし時の社主が「不安を黙認すれば、今まで当社製品をご愛顧くださった方々に申し訳が立たぬ」と、涙を呑んでハサミを入れたのだ。社内ではこれを「断機の訓え(おしえ)」として、モノづくりの心、責任の証として現在まで継承している。

一貫生産にこだわり、顧客第一主義を貫く同社は、企画・デザインに始まり、製織から縫製、仕上げ、物流、施工に至るまで、全工程を社内で行う一貫生産体制を備えている。手織りの技術者が丹精込めて織り上げる美術品から、毛髪の1/2という極細糸を織り上げる最新鋭織機で表現した緻密なファブリックまで、伝統の技と先端技術が共存する幅広い技術力を誇る。

空間を彩るトータルコーディネート

二代甚兵衞は、織物に適したデザインができる有能な画家に織物の原画制作を依頼し、専属デザイナーとして雇った。原画にも、現地・現物の考え方を徹底させたという。また、部屋全体をトータルコーディネートするために、完成予想図を作って本物に忠実なイメージで完成品を考えるなど、デザインには特にこだわり続けた。このような思いを現代まで受け継ぎ、独創的なデザインを生み出している。

川島織物セルコンのデザインも手がけた明治の画家・神坂雪佳が描いた原画は、織物にした時に柄が活きるように考案されていた。また菊池芳文が描いた「百花百鳥の間」は、部屋全体をキャンバスとしてとらえ、いわゆるトータルコーディネートが施されている。

暮らしを彩る上質なアート、生活に息づく美しさを目指し、デザインの原点から「時代に合う、使って美しいかたち」「人が心地良く過ごす空間に欠かせない装飾」を追求している。

織物を熟知した社内デザイナーたちが生み出す美しい製品

また川島織物セルコンでは、デザイナー・技術者の自社養成にも注力。入社直後からモノづくりの心やデザインの考え方、織物知識を学んだデザイナーや技術者は、ファブリックスの特性を熟知しており、最高に美しい製品を生み出す。

さらに社員のブランドを立ち上げたり、国内外のブランドのエッセンスを巧みに取り入れたりするなど、完成度の高い製品作りに多様な角度から努めている。伝統文化と現代の感性、日本と世界のデザイン、技術と表現力を融合させ、より優れたモノやトレンドを発信し続けているのだ。「織物でどこまで表現できるのか」、その限界に挑戦し続けるスピリットこそが、川島織物セルコンの力の源泉といえるだろう。

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