おうちに帰ろう 序章: トンネルの中の素敵な寝床

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カヴァース小説部

序章: トンネルの中の素敵な寝床

わたしの大事なフランスベッドは、アパートの部屋の中で凄い存在感を放っている。

ただいまーと帰宅し、パンプスを脱ぎ捨てて入り、ベッドを見る。身も心もくたびれ果てている。ベッドは光を放っているように見える。まるで、試練の旅の末にたどり着いたオアシスのように、癒しに満ちた場所である。

実際、わたしのフランスベッドは心身のオアシスだ。

服を脱ぐのももどかしく、ざぶんとばかりに飛び込む。そうすると、頼りがいのあるマットレスが「おかえり」とばかりに抱きとめてくれるのだ。

 

「アアー、帰った、帰ってきたよぉ」 

呟きながら、ベッドの中に身を埋める。

これだけで、信じられない位に救われる。

極上のぬくもりの中で目を閉じ、あの奇妙な、山田君の言葉を思い出すのだ。

「なんじ、良き寝床で休むべし」

 

ああ、山田君よ。

(占いを値切ったりしてゴメン)

あの晩、思いがけず出くわした同級生の山田君。彼はなんと、占い師になっていた。副業らしいけれど。

当たってたよ、山田君。わたしに必要なものは、良いベッドだった。確かにそうだったよ。馬鹿らしいなんて思って、ほんとゴメン。

いつか再会したら、一杯おごらせてもらわねばなるまい。

 

そしてわたしは、うとうととする。

ここは、わたしの場所だ。居心地の良い、わたしのためだけの、最高のオアシス。ここで、わたしは十分に癒される。そしてまた、明日、繰り出してゆく。

現実という砂漠へ。

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