おうちに帰ろう 序章: トンネルの中の素敵な寝床
【連載】おうちに帰ろう - 安らげる場所、フランスベッド -
- 【第1回】 おうちに帰ろう 序章: トンネルの中の素敵な寝床 ←今回はココ
- 【第2回】 おうちに帰ろう 第1章: オアシスへの道のり
- 【第3回】 おうちに帰ろう 第2章: なんじ、良き寝床で休むべし
- 【第4回】 おうちに帰ろう 第3章: 飲み屋のプリンス
- 【第5回】 おうちに帰ろう 終章: 山あり谷ありベッドあり
序章: トンネルの中の素敵な寝床
わたしの大事なフランスベッドは、アパートの部屋の中で凄い存在感を放っている。
ただいまーと帰宅し、パンプスを脱ぎ捨てて入り、ベッドを見る。身も心もくたびれ果てている。ベッドは光を放っているように見える。まるで、試練の旅の末にたどり着いたオアシスのように、癒しに満ちた場所である。
実際、わたしのフランスベッドは心身のオアシスだ。
服を脱ぐのももどかしく、ざぶんとばかりに飛び込む。そうすると、頼りがいのあるマットレスが「おかえり」とばかりに抱きとめてくれるのだ。
「アアー、帰った、帰ってきたよぉ」
呟きながら、ベッドの中に身を埋める。
これだけで、信じられない位に救われる。
極上のぬくもりの中で目を閉じ、あの奇妙な、山田君の言葉を思い出すのだ。
「なんじ、良き寝床で休むべし」
ああ、山田君よ。
(占いを値切ったりしてゴメン)
あの晩、思いがけず出くわした同級生の山田君。彼はなんと、占い師になっていた。副業らしいけれど。
当たってたよ、山田君。わたしに必要なものは、良いベッドだった。確かにそうだったよ。馬鹿らしいなんて思って、ほんとゴメン。
いつか再会したら、一杯おごらせてもらわねばなるまい。
そしてわたしは、うとうととする。
ここは、わたしの場所だ。居心地の良い、わたしのためだけの、最高のオアシス。ここで、わたしは十分に癒される。そしてまた、明日、繰り出してゆく。
現実という砂漠へ。