第2回: 穏やかな雰囲気の食事空間

  第2回: 穏やかな雰囲気の食事空間
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部屋を快適にする”文法” - 知恵の蓄積に学ぶ

第2回: 穏やかな雰囲気の食事空間

部屋を快適にする”文法” - 知恵の蓄積に学ぶ

部屋が散らかっていたり、リビングやダイニングなどの場所ごとの区切りがなく雑然としていると、どこか気持ちも乱れてくる。洋二の部屋は特にその傾向が強かった。というのも、フリーランスとしての仕事のため、一日の生活リズムは自由に設定でき、自分の部屋の中で生活が完結していたからだ。その場その場で、その時々の活動を行い、寝床や食事場所、休憩場所の区切りは存在しなかった。しかし、先日web上で発見した一冊の本『パタン・ランゲージ』との出会いによって、洋二の部屋は少しずつ変わっていく。

「囲まれてる感覚が、やっぱり気持ちいいなぁ。」

本の中で発見したパタン「ベッド・アルコーブ」の理論をもとに、部屋全体の空間と連続しながらも、そこから独立した場所となるよう天蓋を設けたベッドは、いまや洋二の楽園の1つとなっていた。

「部屋の中で特別な場所があるというのは豊かなことかもしれないね。」

部屋を変えることで、そこでの生活のあり方や、気分も変わる。洋二は、小さな幸福を感じはじめていた。部屋を少し変えるだけで、こんなにも生活が生き生きとするのだ。

「っと、その前にご飯でも食べようかな。」

穏やかな雰囲気の食事空間01いつものように、台所からご飯を作業テーブルに運び、机の前のPCの画面を見ながら食事を摂りはじめた。しかし、いつもやっていることにも関わらず、どこかしら違和感を感じていた。

「なんとなく落ち着かないな。」

作業机には、仕事のための資料や、筆記用具の他に、読みかけの小説などが散らばっていた。それらを一時的に脇へよせて、食器が並べられている。その光景に対し、いつものことという安心感がありつつも、雑然としてすっきりとしてないことの居心地の悪さがあったのだ。

「食事場所はどうあるべきなんだろう。」

そう思いながら、洋二は『パタン・ランゲージ』に目を通した。食事空間に関するパタンを探していると、「食事の雰囲気」という項目が目に入ってきた。そこには、「人を招じ入れてゆっくり気持ちよく食事のできる部屋もあれば、早々に切り上げて別の場所でくつろぎたくなるような部屋もある」と書かれている。洋二は一人暮らしであるため、多人数で食事をとることはあまりなかったが、今の食事場所の落ち着かなさのヒントがここにあるような気がした。

「どうやったらもっとくつろげる場所になるのかな。」

穏やかな雰囲気の食事空間02続けて、読んでいくと、どうやら食事空間の「明るさ」が重要らしい。「卓上の明かりが同質で、周囲の壁面の光度が同じ場合は、光が人びとを結び付ける役目を果たさない。つまり、人びとの気持ちが集中せず、何か特別な集まりだという感じからほど遠くなる」というのだ。なるほど、食事空間が他の場所と均質な状態になってしまうと、他のことに気が散ってしまい落ち着かないらしい。これは、洋二としても自身の部屋の状態を考えると、腑に落ちる説明であった。

「じゃあ、どういう明かりを付ければいいんだろ。」

食事空間を特別な場所にするためには、「卓上に照明を下げ、人びとの上に明かりだまりをつくり出し、周りを壁で囲むか、対照的に暗くすること」が大切である。テーブルの上に光がたまり、ご飯が並べられる。その光景には、おだやかで幸福な食卓のイメージがあった。早速、洋二は物置となっていた食事テーブルを整理し、そこに照明を垂れ下げた。さらに、テーブルの周りを腰の高さの棚で囲み、作業スペースと分離した。

「今度、友達を呼んで、ご飯食べながら話でもしようかな。」

テーブルの上にたまった光が、人を招きたいという心地にさせた。

参考: C.アレグザンダー(平田翰那訳)、『パタン・ランゲージ』、鹿島出版会、1984