祝福のかたち 終章: 家族のかたち

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カヴァース小説部

【連載】祝福のかたち - 家族を見守る椅子、秋田木工 -

終章: 家族のかたち

 秋田木工で、とても良い曲げ木のロッキングチェアが見つかったのよ。

 あまりにも素敵で、まるで巡り合うのが運命だったみたいに思えた。

 なんだか、そこに座ると、どっしりとした強いものに護られているように感じたの。

 もしかしたら、曲げ木という加工技術が長い歴史を持っているからかもしれないし、その伝統を引き継いできた職人さんたちの屈強な意思が、椅子に込められているからかもしれない。

 

 昨日今日で、できることじゃない。

 確かな足取りで、確実に伝えられ、磨かれてきた。

 その足取りはきっと、未来にも続いて行くのよ。

 そんなふうに思った。そして、そんな椅子に座って、赤ちゃんを抱きたいと思ったの。

 それにね、旅行中、パパから聞いたのよ。

 なんと、おじいちゃんのあのロッキングチェアも、秋田木工の品なんだってさ。

 ねえ、なんか凄い巡りあわせじゃない?


 ママからのラインは、妙にロマンチックでポエム的だった。

 なにより、今の四人姉妹の思いに、妙に重なっていた。

 

 「なんか不思議だよね」

 「できすぎてるわよね」

 

 みのりとさおりは言い合っている。

 現実的なみのりと、空想大好きなさおり。まるで違う二人だけど、今回は同じ意見らしい。

 おじいちゃんが、戻ってくるわけではない。

 けれど、なんとなく、おじいちゃんの優しいまなざしを感じてしまう。

 多分、おじいちゃんは、赤ちゃんが生まれることを心から喜んでくれていて、なんとか祝福の気持ちを表したいと思ったのだ。

 秋田木工のロッキングチェアという、祝福の形。

 

 「いつ来るんだろうね」

 「えっ、赤ちゃんは来年の2月じゃん」

 「違う、ロッキングチェアのことだよー。パパとママが注文した秋田木工の椅子ぅ」

 もうじき、パパとママが帰ってくる。

 駅からタクシーに乗って。

 わたしは、疲れて帰ってくる両親や、清掃作業でくたびれた姉妹たちのために、夕食を作る。

 じゃがいもの皮を剥き、人参を切る。お肉はポーク。たまねぎは既に刻み終えていた。

 カレーは、みんなで食べるのが良い。

 うちは皆、辛口が好きだ。辛口のルーを何種類かブレンドして、カツやエビフライをトッピングして食べる。カレーなべの隣で、じゅうじゅうじりじりとフライの油が音を立てていた。

 「弟が生まれて、やがてカレーを食べるようになったら、小さいおなべがもうひとつ、いるなあ」

 独り言を呟いた。

 

 甘口カレーのための、小さなおなべ。

 小さな子供には、辛口カレーは刺激が強すぎるから。

 「ほら、あんたたち、皿並べるの手伝って」

 かおり姉が妹たちに声をかけている。

 その時、家の外に車が止まる気配がした。タクシーだろう。

 帰ってきた。

 パパとママ。それから、ママのおなかの中に、もう一人。

 そう思った時、もう今の時点でうちは、六人家族ではなくて、七人家族に戻っていることに、わたしは気づいたのだった。

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