人生の祝福 序章: 絶体絶命のピンチ
【連載】人生の祝福 - 意味のある至福、シーリー -
- 【第1回】 人生の祝福 序章: 絶体絶命のピンチ ←今回はココ
- 【第2回】 人生の祝福 第1章: 今のあなたに、必要なもの
- 【第3回】 人生の祝福 第2章: 至福の天使と、仕事の武人
- 【第4回】 人生の祝福 第3章: 幸せになってもいい
- 【第5回】 人生の祝福 終章: 贈り物
序章: 絶体絶命のピンチ
そこには、至福の天使が住んでいる。
「ここでお休みよ。もう、意地張ってないでさ」
天使は、ふくふくの頬っぺたを緩ませて、にこにこ笑顔で手招きする。
部屋が、一流ホテルになったかのような。
そのベッドは、そこにあるだけで、部屋を豊かに、幸せにした。
(続けられないかもしれない)
わたし、久住ゆうは絶体絶命のピンチに瀕している。
真冬の空気は痛いほどで、それが余計に体にこたえた。
労災の手続きは、予想していた以上に胸が痛むことだった。腰痛は職業病であり、自分だけじゃないという思いが罪悪感を生んだ。更に同時に発症した坐骨神経痛が拍車をかけ、「休む以外、どうしようもない」と、思うしかなった。
介護現場は毎日が多忙だ。深刻な人員不足も手伝い、その日の夜勤者の手配に目くじらを立てなくてはならない始末。
有休下さい、と言い出すのは物凄く辛くて、体が小さくなる思いだったーーまあ、縮まなかったけれど、このガタイの良さは。
「いいよ、しっかり休んで。それから仕事してください」
桂主任はそう言ってくれたが、ユニットの職員の中には、口にこそ出さないが、表情にありありと文句が現れる人もいる。
それは決して心が狭いわけじゃなくて、本当に本当に、しんどい状況だからなのだ。わたしだけじゃない、みんなが大変なのだ。なのに、わたしは体を壊したという理由で休みを取る。
(かえって、苦痛だぁ)
介護士になって十年目。この道一筋と思ってきたが、こんな状態でこの先、大丈夫だろうか。
腰痛は、これが初めてではない。じわじわと痛むこともあれば、「あっ、やっちゃった」と分かる瞬間もある。しかし、薬やコルセットで何とかしのいできた。それが、わたしにとっても、みんなにとっても当たり前だった。
(けれど、これじゃあなあ)
ぎっくり腰。これは酷い。注射をしてもらい、なんとか歩けるようになったものの、仕事は厳しかった。それじゃあフロアの見守りだけでも、と思ったら、利き足がいきなり、ぴいんと猛烈に硬直した。
久住ゆう35歳。ぎっくり発症と同時に、坐骨神経痛持ちになった。オウマイガー!
有休休暇初日。整形外科でリハビリを受け、しおしおと家に戻る。寒い空から、はらっと大きなひとかけらが落ちてきた。首筋に乗って飛び上がる。そして、腰もずきんと痛む。雪である。
ふいに、あの、よく分からない仕事をしている姉からの言葉が蘇る。
「頑張りすぎだから、休みなさいっていうコトだよ」
ふんわり笑って、「癒されるお茶」とかいうフレーバーティーを淹れてくれた。
そんなもんで現実が解決するかい、と思いつつ飲んだら思いのほか、美味しかったっけ。
(ほんと、休みなさいっていうことなのかなぁ)
次々に雪が落ちてくる冬の空を見上げた。
寒さは、今の私の体には、本当にこたえる。今夜も湯たんぽが必要だ。