ハートキャッチャー 第3章: 安らげる存在に

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カヴァース小説部

第3章: 安らげる存在に

「私ね、自分の仕事って、人の身体を受け止めるベッドに似てるって、昔から思ってるのよ、けっこう真剣に」

「カウンセリングの仕事が、、ベッド、、?」

「そうよ、突拍子もないって思うかも知れないけど、でも、やればやるほど本当にそう思うのよ。人の心を受け止めて、安寧へと導く。これって疲れた体を眠りに誘うベッドみたいだなあって、私はベッドに横になる度に真剣にそう思ってるのよ」

理紗子は本当にカウンセリングの仕事が好きなんだろうなと、郁男は改めて思った。人の心を受け止めるのをベッドになぞらえるなんて、いかにも理紗子らしいユニークな発想だ。こんな風に人の為を想って働く理紗子と一緒にいられて、つくづく自分は幸せ者だなと、郁男はベッドの中でひとり幸せをかみしめた。

それからも理紗子は毎日精力的に仕事に取り組んだ。カウンセラーとして日々たくさんの人の話を聞き、気持ちに寄り添い、様々な状態の心を受け止めた。つらい心、悲しい心、空っぽになった心。人それぞれが抱える千差万別の心の悩み。そのひとつひとつに丁寧に向かい合い、最適な言葉をかけてあげた。決して楽な仕事ではないが、苦しむ人に笑顔を取り戻してあげることの出来る、やりがいのある仕事だと理紗子は感じていた。

そうして一カ月が過ぎ、理紗子の四十歳の誕生日が訪れた。ベッドの上で目覚めると、自分の人生がまたひとつ大きなステップを上がったのかなと、理紗子はぼんやりと考えを巡らせた。そんな人生の節目となる朝でも、フランスベッドはいつもと変わらない寝心地の良さを感じさせ、理紗子の心に安心感を与えてくれた。

すでに郁男は起床しており、ベッドの中は理紗子ひとりだった。そういえば郁男は私に誕生日プレゼントを用意してくれているのだろうか?と理紗子は思った。いつもだったら事前に何が欲しいかと聞かれるが、今年は全くそんな話はなかった。ケーキと料理は用意しておくと聞いていたが、そういえばプレゼントの話は何一つしていない。

もしかしたらサプライズでも用意しているのだろうか?

理紗子は淡い期待を胸に秘めながら、ベッドから起き上がり、朝の支度に取り掛かった。

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